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東京地方裁判所八王子支部 昭和56年(ワ)914号 判決

主文

一  被告新津勲、被告有限会社日協運輸は原告に対し、各自金三、四八九万二、一〇七円及びこれに対する昭和五六年三月二九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告新津勲、被告有限会社日協運輸に対するその余の請求並びに被告株式会社昭和石材工業所に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告新津勲、被告有限会社日協運輸との間に生じた分はこれを三分し、その二を原告の、その余を右被告らの負担とし、原告と被告株式会社昭和石材工業所との間に生じた分は原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、各自金一億二、五五七万二、三一一円及びこれに対する昭和五六年三月二九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁(被告ら)

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 発生日時 昭和五六年三月二九日午前五時四五分頃

(二) 発生場所 東京都八王子市北野町二二六番地の一先路上

(三) 加害車 被告新津勲(以下、被告新津という。)運転の大型貨物自動車(帯一一あ三三二七号、以下、加害車という。)

(四) 事故の態様 原告が道路舗装用アスフアルトを積載した被告新津運転の加害車の後退を誘導中、加害車が標識灯に接触、折損し、右標識灯が原告の頸椎を直撃した。

2  事故の結果

本件事故により、原告は外傷性頸髄損傷、第六頸椎々体部骨折の傷害を受け、右治療のため、同日から昭和五六年七月七日まで武蔵野赤十字病院(以下、赤十字病院という。)に、同月八日から昭和五八年三月三一日まで甲州中央温泉病院(以下、温泉病院という。)に、同年四月一日から昭和五九年一二月三一日まで国立療養所箱根病院(以下、箱根病院という。)に、それぞれ入院したが、両下肢の用を廃し、神経系統の機能に著しい障害を残し、常に介護を要する程度の後遺症を残す結果となり、右は昭和五九年一二月三一日その症状が固定した。

3  責任

(一) 被告新津は加害車を後退運転させるに際し、その運転の誘導を担当する原告の所在位置、行動の状況、後退の障害となるべき物の有無、位置関係を確認し、原告の誘導を得て後退運転すべき業務上の注意義務があるにもかかわらず、原告の後退進入了解の赤色灯による合図を確認せず、かつ原告の位置、行動を確認せず、その誘導を得ることなく、漫然後退を継続し、よつて加害車の後部を標識灯に接触させ、折損し、よつて本件事故を生じさせたものであるから、民法七〇九条による責任がある。

(二) 被告有限会社日協運輸(以下、被告日協という。)は砂利、砂、採石、舗装用アスフアルト等の運送業務のため加害車を使用し、自己のため運行の用に供していた。

また、本件事故は被用者たる被告新津が被告日協の業務を執行中、前記過失により発生させたものであり、従つて被告日協は第一次的に自賠法三条、第二次的に民法七一五条一項による責任がある。

(三) 被告株式会社昭和石材工業所(以下、被告昭和という。)は砂利採取並びに販売、舗装工事の請負等を営む会社であり、被告日協をして右事業を請負わせたうえ同被告の前記業務の遂行を指揮監督して本件加害車を自己の業務に使用し、自己のため運行の用に供していた。また本件事故は被告日協の被用者である被告新津が前記業務執行中の過失によつて発生させたものである。従つて被告昭和は第一次的に自賠法三条、第二次的に民法七一五条一項による責任がある。

4  損害

(一) 治療費 金七万九、三四〇円

(1) 温泉病院における昭和五六年七月八日から昭和五八年三月三一日までの間の治療費本人負担分 金一万四、〇四〇円

(2) 温泉病院における特別室使用料 金六万五、三〇〇円

原告の症状からして、特別室の使用はやむをえなかつた。

(二) 付添看護費用 金一八三万二、〇〇〇円

(1) 近親者(母、姉、叔母)による入院付添費 金七二万六、〇〇〇円

昭和五六年三月二九日から昭和五八年一月二四日までのうち二四二日間、一日当たり金三、〇〇〇円

(2) 付添人の寝具賃貸料、食費 金一一〇万六、〇〇〇円

昭和五六年七月八日から昭和五八年三月三一日まで合計六三二日間、一日当たり金一、七五〇円

(三) 入院雑費 金九一万八〇〇円

昭和五六年三月二九日から昭和五九年一二月三一日まで一三七四日間、一日当たり金七〇〇円、但し自賠責保険より金五万一、〇〇〇円補填されているのでこれを控除した。

(四) 障害慰謝料 金三四九万円

原告は前記障害治療のため昭和五六年三月二九日から昭和五九年一二月三一日まで一三七四日間の入院治療を余儀なくされた。

(五) 後遺症慰謝料 金二、〇〇〇万円

原告は前記のとおり後遺障害等級表一級の後遺症を残した。これに対する慰謝料は右金額が相当である。

(六) 後遺症による逸失利益 金五、五八七万七、〇三五円

原告は後遺症固定時二二歳で、なお四五年就労可能であるところ、右後遺症により労働能力を一〇〇パーセント喪失し、一方当時の平均収入は一か月金一八万二、一五五円、年間賞与金二一万九、四五〇円であり、これをもとにホフマン方式により(係数二三・二三〇七)中間利息を控除して算出すると、その現価は金五、五八七万七、〇三五円となる。

(七) 将来の介護料 金二、七八七万六、八四〇円

原告は一級の重度障害者であり、原告自身の努力により車椅子での生活が可能となつたものの、常時近親者による介護を必要とする。

右介護費用は一か月金一〇万円が相当であり、生存可能期間を四五年としてホフマン方式により(係数二三・二三〇七)中間利息を控除して算出すると、その現価は金二、七八七万六、八四〇円となる。

(八) 建物改造費 金六四八万三、〇〇〇円

原告は箱根病院を退院後、終生にわたり山梨県韮崎市の原告の両親の実家で生活していくことが必定である。そのため原告の実家では原告が車椅子で日常生活を過ごせるようするため旧建物を取り壊して新建物を建築せざるをえなかつた。その費用として合計金三、四一二万一、〇〇〇円を要したが、そのうち原告のためにのみ必要な部分は金六四八万三、〇〇〇円である。

(九) 休業損害 金三五二万三、二九六円

原告は本件事故当時一日当たり金六、四二〇円の収入を得ていたところ、昭和五六年三月二九日から昭和五九年一二月三一日までについては一三七二日分、労災保険よりその六〇パーセントに当たる一日金三、八五二円の割合による休業補償の給付を受けただけである。従つてその差額一日当たり金二、五六八円の割合による右期間の休業損害は金三五二万三、二九六円となる。

(一〇) 弁護士費用 金五五〇万円

本件請求額、訴訟の難易を考慮し、その弁護士費用は金五五〇万円が相当である。

5  よつて原告は被告らに対し、各自右損害金合計金一億二、五五七万二、三一一円及びこれに対する本件事故発生日である昭和五六年三月二九日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁(被告ら)

1  請求原因1の事実中、(四)の標識灯の上部が原告の頸椎を直撃したことは不知、その余は認める。

2  同2の事実は知らない。

3  同3(一)の事実中、被告新津が原告の誘導で加害車を後退、誘導し、その際その後部が標識灯と接触したことは認め、その余は争う。但し被告新津に過失責任があることは認める。

同3(二)の事実は認める。

同3(三)の事実中、被告昭和が砂利採取、販売を業とする会社であること、加害車が被告昭和の商品であるアスフアルトを運搬中であつたことは認め、その余は争う。被告昭和は訴外橋爪商店にアスフアルト運搬を依頼しただけであり、橋爪商店が更に被告日協に運送を依頼したのである。

4  同4の事実は不知、もしくは争う。

三  抗弁(被告ら)

1  原告は本件事故当時、訴外中央警備保障株式会社(以下、訴外会社という。)の被用者として本件事故発生地にある道路工事現場で車両誘導の職務についており、被告新津運転の加害車の運行の安全についても注意義務を負うべき立場にあつた。本件事故の際、原告は車両誘導で通常行われている笛による誘導を行わなかつたうえ、加害車が標識灯に接触しそうになつたときは誘導者として、まず停止の声をかけるなどして同車を停止させて事故の発生を未然に防止する措置をとるべきであつたのに、何らそのような措置をとらないまま同車の後退を継続せしめ、かつ自らも右標識灯に接近したため、原告が負傷したのであり、被告新津は誘導者たる原告からの停車合図がなかつたため同車の後退を継続したものであり、これに比して原告の過失は重大であるから、過失相殺すべきである。

仮に原告が何らかの合図をしたとしても、原告は被告新津に対する停止の合図到達の確認をなすべきであつたのに、これをしないまま加害車の死角にあたる位置に移動し、かつ接近する加害車の動静に注意を払うことなく、また容易に動かしがたいコンクリート台付標識灯を取り除こうとして本件事故にあつたのであるから、その過失は重大である。なお被告新津が後退を続けている以上、被告新津に停止の合図が届いていないことが明らかであるから、直ちに標識灯のそばを離れれば、本件事故の発生を防ぐことができたものと思われる。

2  原告は本件事故による損害につき、自賠責保険から金一二〇万円、労災保険から金三、二七三万六三三五円の支払を受けている。

四  抗弁に対する答弁

1  抗弁1の事実中、原告が訴外会社に勤務しており、本件現場で車両誘導の職務についていたことは認め、その余は否認する。原告は加害車の後退を誘導をするに際し、左側後部荷台と標識灯が接近する状態になつたため、赤色誘導灯と大声で停止の合図を続けて指示したにもかかわらず、被告新津はこれを確認せず、かつ原告の位置、行動を確認しないまま漫然後退を継続したため本件事故を生じさせたものである。原告は加害車と標識灯とが接触することを防止すべく、被告新津のことを考えて行動したのであり、過失はない。

2  同2の事実中、原告が自賠責保険から金一二〇万円の弁済を受けたことは認める。但し右部分は本訴請求から除いてある。

労災保険からの支払分についても、その部分は本訴において請求していないから弁済の抗弁として主張するのは失当である。仮に原告に過失があつたとしても、原告の過失に基づく損害金に相当する労災保険給付は、労災保険の趣旨から労働基準監督署が負担すべきものであるから、被告の抗弁とはなりえない。

第三証拠

本件記録中、書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1記載の日時、場所において、被告新津運転の加害車と標識灯とが接触する事故が発生したことは当事者間に争いがない。

二  右争いない事実に成立に争いのない甲第一ないし第三号証、証人大橋一慶の証言、原告、被告新津勲(後記認定に反する部分を除く。)各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めるこどができる。

1  本件現場は、国鉄八王子駅南東約五〇〇メートルの地点で都道一六〇号線の道路上であり、南東から北西方向へ緩い左カーブを形成する両側二車線(幅員七メートル)の舗装道路である。本件現場では、当時、大成道路株式会社が請負つた道路舗装工事を行つており、本件事故当時は、西進車線の工事は終了しており、東進車線を工事中であつた。そのため東進車線は約九〇メートルにわたつて一般車が使用できない状態にあり、東進車線は工事関係車のみが出入していた。そして右工事部分は、その境界部分に数メートル間隔で三角錐(セイフテイコーン)が置かれており、一般車が進入できないようになつていた。

2  原告は当時訴外会社に勤務しており、同僚二人とともに右工事現場において、一般車、工事関係車の進行、誘導の業務に従事していた。右三名は、それぞれ右工事区間の東端、西端、中央付近において、相互に連絡をとりつつ西進車線を使つて一般車を東西から交互に進行させていた。ただ東端の者は一般車のほか、東側より東進車線の本件工事部分に進入する工事関係車の誘導をも行うことになつており、本件事故当時は原告が右東端の部署に配属されていた。

3  被告新津は当時被告日協に雇用されており、その業務として加害車を運転して道路舗装用アスフアルトを本件工事現場に運んでいたが、本件事故の際も、本件工事区間の東側で加害車の前部を東方に向け暫時待機した後、原告の誘導に従い、右アスフアルトを積載した加害車を、西進車線から工事を行つている東進車線に進入させるべく、後退させていつた。

4  当時右工事区間の進入口には、西側に三角錐、東側に車両の進路を指示する大型標識灯(基礎部分コンクリート製、ポールの高さ二・五メートル、上部の円形標識板直径〇・八メートル、右基礎部分にはコロがついており、移動することが可能なようになつていたが、一人で動かすには無理な重量であつた。以下、本件標識灯という。)が置かれており、工事関係車はその間(約一〇メートル)をバツクで進入させることになつていた。

5  原告は西進車線にいて加害車の後退を赤色誘導灯と声で誘導したが、一回目は左にハンドルをきつた際、右前部が右側ガードレールに接触しそうになつたため、被告新津に停止を命じ、一旦前進させたうえ再度後退を指示してその誘導にはいつたところ、今度は前記進入口に近づくにつれて加害車後部左側が本件標識灯に接触する危険が生じたため、原告は西進車線の中央付近において赤色誘導灯と声で被告新津に停止を命じたが、被告新津はこれに気付かず、そのまま後退を続けたので、原告は加害車の後部を横切り、本件標識灯の東側に移動し、更に停止の合図を送つたが、なお後退し続けたため、衝突を防ぐべく本件標識灯に手をかけてこれを移動させようとしたものの動かなかつたため、その場で再び停止の合図を命じたが間に合わず、加害車後部左側が本件標識灯に衝突し、そのポールが折損し、上部が原告の頸椎を直撃した。

6  被告新津は二度目の後退に入つて後は原告の停止の合図に気付かず、また本件標識灯の存在にも気付かなかつた、なお原告が本件標識灯に手をかけて後に送つた停止の合図は加害車の運転席からは死角になつており、被告新津からは見ることができない位置であつた。

以上の事実を認めることができ、被告新津本人尋問の結果中、右認定に反する部分は原告本人尋問の結果に対比して採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

三  右認定によれば、被告新津は加害車を後退させるに際し、自ら後退の障害物の有無に注意を払うべきのみならず、誘導員たる原告の動静、指示に十分注意し、その指示に従つて運転すべき義務があるものというべきところ、被告新津は本件標識灯の存在に気付かなかつたのみならず、原告の所在を確認せず、またその停止の合図を見落として漫然後退を続けたため、本件事故を発生させたものということができ、被告新津に過失が存することは明らかである(被告新津に過失責任が存在することは、当事者間に争いがない。)。

他方原告は誘導員として後退車を的確、安全に誘導すべき義務があり、万一車両が原告の停止の合図に気付かない様子が伺える場合には、運転席に近づいてでもその合図を知らしめるべきであり、その余裕がないときでも、善意からとはいえ、自ら後退車の後部に廻つて衝突する危険がある本件標識灯に近づき、これを移動させようとすること等は避けるべきであつたというべく、被告新津本人尋問の結果によれば、当時加害車は人が歩く位の速さで後退していたことが認められるのであるから、自らその危険範囲から身を遠ざけることは可能であつたと認められるから、この点において、原告にも落度があつたことは否定しがたい。

そして本件事故発生の原因を総合勘案すれば、右過失割合は原告四・五、被告新津五・五と認めるのが相当である。

四  成立に争いのない甲第四号証の一ないし一二、第七号証の一ないし六(原本の存在とも)、第一〇号証の一ないし三、第一一号証の一ないし九、第一七号証、第一八号証の一ないし三、第三五号証の一、二、第三六号証の一、二、第三七号証、証人守屋実(第一、二回)、同倉林博敏の各証言、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、請求原因2の事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

五1  前記判示のとおり、被告新津の民法七〇九条による責任の存在は明らかである。

2  被告日協の自賠法三条による責任の存在については、当事者間に争いがない。

3  被告昭和が砂利採取、販売を業とする会社であること、加害車が被告昭和の商品であるアスフアルトを運搬中であつたことは当事者間に争いがない。

しかしながら、証人村木善太郎の証言によれば、被告昭和は本件道路の舗装工事を請負つたわけではなく、単にアスフアルトを販売したのみで、しかもその運送を訴外有限会社橋爪商店に依頼したにすぎず、被告昭和は有限会社橋爪商店から右運送を請負つたもので、被告昭和と被告日協との間に指揮監督の関係はなかつたことが認められるのであるから、本件加害車の運行につき、被告昭和が運行供用者であるということはできず、また被告昭和が被告新津の使用者であるということもできない。

従つて被告昭和に対する本件請求は理由がない。

六  よつて損害につき判断する。

1  治療費

前掲甲第四号証の一ないし一一、第一一号証の一ないし九、証人守屋実の証言(第一回)並びに弁論の全趣旨によれば、原告は温泉病院における昭和五六年七月八日から昭和五八年三月三一日までの治療費本人負担分として金一万四〇四〇円、特別室使用料として金六万五三〇〇円、合計金七万九三四〇円を要したこと、右特別室の使用は原告の症状からしてやむをえなかつたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  付添費

前掲甲第四号証の一ないし一一、第七号証の一ないし六、第一一号証の一ないし九、成立に争いのない甲第一二号証の一ないし四、証人守屋実の証言(第一回)により真正に成立したものと認められる甲第五号証の一ないし四、第六号証、証人守屋実の証言(第一回)並びに弁論の全趣旨によれば、原告の症状は極めて重篤であつて、入院療養中常時付添を要する状態にあつたこと、そのため昭和五六年三月二九日から昭和五八年三月三一日までの間、職業付添人、もしくは原告の母、姉、叔母らの付添を受けざるをえなかつたこと、そのうち右近親者による付添を受けた日は合計二四二日間であつたことが認められる。そうすると原告は、右期間中一日当たり金三〇〇〇円の割合による合計七二万六〇〇〇円の損害を被つたことになる。

なお原告は右のほか、付添人の寝具、食費代等を請求するが、これらは右定型の金額内に含むものと解すべきであるから、別個に考慮するのは相当でない(原告は職業付添人による付添費は弁済を受けたとして本件で請求してないが、この点は後に弁済充当のところで判断する。)。

3  入院雑費

原告は前記入院期間(一三七四日)中、入院雑費として一日当たり金七〇〇円を要したことが推認されるから、その間の入院雑費は少なくとも金九一万八〇〇円を下らない。

4  傷害慰謝料

本件事故により原告が受けた傷害の部位程度、治療の内容、入院期間その他諸般の事情に照らせば、その精神的苦痛に対する慰謝料は金三〇〇万円をもつて相当と認める。

5  後遺症慰謝料

前記認定の事実に前掲甲第三五号証の二、証人守屋実(第二回)、同倉林博敏の各証言、原告本人尋問の結果を総合すれば、原告の後遺症の程度は極めて重く、これにより原告は多大な精神的苦痛を受けたものと認められ、これに対する慰謝料は金二〇〇〇万円をもつて相当と認める。

6  後遺症による逸失利益

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第八号証、原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故当時訴外会社に勤務し、一か月平均金一八万二一五五円の給与と年間二一万九四五〇円の賞与、年間合計金二四〇万五三一〇円の収入を得ていたこと、また本件後遺症固定当時満二三歳であり、今後四四年間就労可能であつたところ、本件後遺症のため稼働能力を一〇〇パーセント喪失したことが認められ、右によれば、原告の本件後遺症による逸失利益の現価は次の算式により金四二四八万四二六八円となる。

2405310×17.6627(テイプニツツ係数)=42484268

7  将来の介護料

原告の後遺症の程度が極めて重篤であることは前判示のとおりであり、また前掲甲第三五号証の一、二、証人守屋実の証言(第二回)によれば、原告は右後遺症により終生車椅子での生活を余儀なくされることになつたのみならず、今後家庭生活、社会生活を営む上において、排尿、排便は勿論のこと、衣類の着脱、食事、入浴等様々な面で常時近親者による介護を受ける必要があることが認められる。

右介護に要する費用は本件事故による損害というべく、その額は障害の程度、必要な介護の内容に照らし、一か月金五万円が相当であり、生存可能期間を原告主張のとおり四五年としてライプニツツ方式により中間利息を控除して現価を算出すると次のとおり金一〇六六万四四〇〇円となる。

50000×12×17.7740(ライプニツツ係数)=10664400

8  建物建築費

証人守屋実の証言(第二回)により真正に成立したものと認められる甲第一四号証の一ないし三、第一五号証、第一九号証、第二〇号証の一ないし四、第二一号証の一、二、第二二号証の一ないし三、第二三号証の一、二、第二四号証の一、二、第二五号証の一ないし六、第二六号証の一、二、第二七号証の一、二、第二八号証、第二九号証の一、二、第三〇号証、第三一号証の一、二、第三二ないし第三四号証、証人守屋実の証言(第二回)により昭和五九年五月一一日撮影した守屋実家の写真と認められる甲第一六号証の一ないし一〇、証人守屋実の証言(第二回)並びに弁論の全趣旨によれば、原告は箱根病院退院後は山梨県韮崎市の父守屋実家で生活せざるをえなくなり、そのため守屋家では原告が車椅子で生活できるようにするため昭和五八年五月から同年一二月にかけて旧家屋を取り壊して新建物を建築し、その費用として合計金二五三四万一七七〇円を要したほか、自ら予め買い求めてあつた相当量の材木をこれに提供したこと、右新建物には原告の部屋を確保したほか車椅子で動けるように廊下の幅を通常より五割広くとり、更に便所、風呂、台所等にも特別の設備を施し、かつまたスペースをとらざるをえなかつたことが認められる。

右のうち原告の前記後遺症あるが故に特別の造作をせざるをえなかつた部分は合理的な範囲内で本件受傷に基づく損害の内に含めるのが相当というべく、その額は証人守屋実の証言(第二回)及び弁論の全趣旨に照らし、金四〇〇万円をもつて相当と認める。

9  休業損害

前判示のとおり原告の本件事故当時の収入は年間金二四〇万五三一〇円であり、従って一日当たり少なくとも金六四二〇円の収入を得ていたものといえるところ、弁論の全趣旨によれば、原告は本件受傷により昭和五六年三月二九日から昭和五九年一二月三一日まで(一三七四日)稼動できず、その間右割合による合計金八八二万一〇八〇円の収入を得られなかつたことが認められる。

6420×1374=8821080

しかして原告においては、右期間の内一三七二日間につき一日当たり金三八五二円の割合による合計金五二八万四九四四円の休業補償の給付を労災保険から受けたことを自認しているから、その差額を計算すれば、右期間の休業損害は原告が請求する金三五二万三二九六円を下らないことが明らかである。

10  以上1ないし9の合計は金八五三八万八一〇四円となるところ、前記原告の過失割合を右損害から差引くと金四六九六万三四五七円となる。

七  原告が自賠責保険より金一二〇万円の支払を受けていることは当事者間に争いがなく、また前掲甲第一七号証、第一八号証の一ないし三、第三六号証の一、二並びに弁論の全趣旨によれば、原告は労災保険から少なくとも金三二七三万六三三五円の給付を受けていることが認められる。

しかしながら原告は右支払、給付を受けた分をそもそも本訴において請求していないのであるから、その全額を本訴請求から差引くことはできず、そのうち原告の過失割合に相当する分のみを損害填補分として控除できるものと解すべきである。

よつて前記六10の金四六九六万三四五七円より右合計金三三九三万六三三五円の四・五割に相当する金一五二七万一三五〇円を控除すると残金は金三一六九万二一〇七円になる。

八  本件事案の内容、審理経過、認容額に照らし、本件事故による損害として認めうる弁護士費用の額は金三二〇万円が相当である。

九  以上の次第であるから、原告の本訴請求は、被告新津、被告日協に対し、各自右七、八の合計金三四八九万二一〇七円及びこれに対する本件不法行為日たる昭和五六年三月二九日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、被告新津、被告日協に対するその余の請求並びに被告昭和に対する請求は失当であるからこれをいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 前島勝三)

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